忘れられない老夫婦。
二十代の頃、病院で働いていた。
接するのはほとんど高齢の患者さん。
まだ二十と数年しか生きてなかった私には、
患者さんたちの姿がまるで
人間性の形態形態のように思えた。
そう思うくらい『人間の人格』というものが強烈に映った。
私の処置に、
「ありがとう」と両手を合わせてくれたおばあさん。
「この病院に入院してあなたに会えてよかった」と言ってくれたおじいさん。
もちろん優しい人だけじゃない。
しばらくトラウマのような気持ちが残る人もいた。
その中でも記憶に残っている高齢の夫婦がいる。
そのご夫婦は佇まいだけで温かい。
少し足が悪くなった旦那さんを奥様がそっと支えているのだが、
その姿がとてもやさしい。
寄り添うようにゆっくりと歩く。
柔和な表情はお二人ともそっくりで、
そこにいる職員みんながほっこりしてしまう。
二人を纏うすべてが温かくて、
可愛らしさもあって、
私は
こんな穏やかな老夫婦になりたい、と思った。